ここで二種類の読者を想定してみます。
まず、デジカメはやったことあるけど、フィルムカメラは初めてだという方。
デジカメにどれくらい精通しているかにもよりますが、デジタルには綺麗な映像を撮影するために様々な補助機能が実装されていて、カメラが一体どういう機構をもち、映像を撮影しているかを撮る人に意識させない仕組みになっています。
フルオートのデジタル一眼に至っては、最適な絞り、シャッター速度、ISO感度を自動で選んでくれますから、あなたは被写体にカメラを向け、シャッターボタンを半押しすると超高速なオートフォーカスによって焦点が合い、あとは指を沈めるだけで最良な画像を毎秒11枚で連射することだってできるのです。もはや写真を撮っているのはカメラ本体であって、あなたはシャッターを押すための道具に過ぎないと言っても過言ではないでしょう。そしてきっと、それが実に味気ない行為だと気づき始めています。
まったくカメラや写真のことを知らずにフィルムカメラをなんとなくやってみたいアナタ。若いのに良い心がけです。
フィルムカメラはデジタルと異なり、ありとあらゆることがアナログでマニュアルですから、不便の連続です。しかし、その不便であることひとつひとつがフィルムカメラの魅力とも言えます。更に付け加えると、フィルム自体安くはありませんし、現像するにもお金がかかります。しかし、何枚撮ってもお金の掛からないデジタル画像よりも、一回のシャッター、一枚の写真に明確な価値が生まれます。
マニュアルの魅力
フィルムカメラの多くはしばしば完全なマニュアル操作が求められます。古いカメラは露出計すらついていません。撮影する人はカメラにどういう要素があって、どういう理屈で写真が撮られているか、ある程度の理解が必要です。それらの知識は総てのカメラに共通であって、デジタルカメラのようにメーカー特有の機能はありませんから、一度覚えてしまえば大丈夫です。そんなに難しくありませんが奥が深いです。
マニュアルで撮影することは、こういう風に撮りたい、という意識が必要です。その意識があってもなお、フィルム撮影は完全にコントロールすることができません。デジタルカメラで露出を間違えると必ず失敗写真になりますが、フィルムで露出を間違えると、思いがけない美麗な名作が生まれることが多々あります。難しい状況で様々な工夫を凝らして撮影した一枚は、それを撮ったときの雰囲気を想起させてくれますし、その写真を見る第三者にも「こう撮りたかったけどこうなった!」という苦悩や喜びを感じさせる力があります。
コストの魅力
- Ekter 100 36枚…1300円
- 現像代…600円
- プリント 1枚…31円
だとすると、シャッター一回切るのに84円ほどかかっている計算です。デジタルのようにそう迂闊にバシバシ撮れません。しかしながら、これだけのお金がかかっている、という事実が写真には必要なのです。何を撮っても何枚撮ってもコスト0円のデジタルでは感じることのない一写の重みがあります。
この価格は多少盛ってあります。安いフィルムであれば600円程度で、550円の現像で同時プリントをお願いすれば、1,200円弱です。
焼き付けるという魅力
シャッターを切った瞬間、光がフィルムに焼き付きます。何が撮れたか、どんなふうに撮れたか、その場では決して分かりません。現像するまでのお楽しみです。現像に出した写真が返ってくるときのワクワクはデジタルにはないものです。
フィルムに慣れてくると徐々にものぐさになってきて、現像していないパトローネが蓄積していきますが、久しぶりに現像に出すと、一年以上も前に撮影した写真が出てきて懐かしい気分になることがあります。
フィルム写真を撮り終えたら、DPE店やラボに現像をお願いします。後で説明するモノクロフィルムと違って、カラーフィルムは必ず誰か人の手を借りないと完結しません。現像だけをお願いすることも出来ますが、印画紙に焼き付けることもできます。Windows向けのダイナミックレンジがおそろしく狭いモニタで鑑賞しておしまいにするのは非常にもったいないので、是非プリントすることをお勧めします。
発色の魅力
色の再現性ではいまやデジタルがフィルムを超えた!と騒いでいたのは2010年ごろでしょうか。
ネガフィルムの色とデジタルの色は全く違います。デジタルでフィルムエミュレーションを追い込んでいくと、ジラジラガサガサした目に痛い彩度過多の露骨な加工画像になってしまいます。他方、フィルムはその豊かな階調性を無視してデジタルスキャンしたとしても、不思議と総ての色が立っています。
赤がすごくハッキリしていますね。デジカメではCanonが赤に強いですが、ベイヤーセンサー素子自体は他社と同じで、赤センサーは少ないですから、やはりなにか無理に加工したジラつきがあります。
ふわっと鮮やかな発色がストレートに表現できるのがフィルムの醍醐味です。