露出を合わせる

マニュアルカメラが初心者にとって難しい理由のひとつが、この「露出」を合わせることです。
カメラに装填されたフィルムに最適な光の量を取り込むために、シャッタースピードと絞りを調整する作業です。デジタルカメラは意図してマニュアルモードにしない限り、自動で最適な露出を決めてくれます。露出計がついているマニュアルカメラもありますが、中古の場合は電池切れだったり故障していたり、あまり信頼できるものではありません。

簡単な方法

露出を合わせるためには、EV値計算が必要になりますが、はじめからこの計算を行うのは難しいと思います。初心者が比較的容易に露出を合わせる方法が2つあります。

1.スマホの露出計アプリを使う

スマートフォン用に無料の露出計アプリがあります。写真を撮って露出を確認するものと、かざしただけで判定してくれるものがあり、後者の方が使いやすいでしょう。お勧めは「Pocket Light Meter」で、iPhone用とAndroid用の両方とも無料です。

撮影したい方向にかざすとシャッタースピードを適宜選んでくれます。フィルムのISO感度と絞り値は手動で変更します。通常このように、好みの絞り値で撮影できるシャッタースピードを選択することで露出を合わせます。あえて被写体ブレを狙ったり、長秒シャッターを行ったり、動く被写体のために速いシャッターが必要な場合は絞り値をコントロールして露出を制御しますが、やや特殊な撮影です。

2.シャッタースピードだけを変える

EVがよくわからない!というめんどくさがりなアナタ。そんなアナタに最適な撮影法。
ISO100のネガフィルムで晴天の屋外を撮影することを前提とした時、F値を2.8に固定します。

1/1000…遮蔽物がない明るい遠景を撮影する場合。Leicaでは原則使わない。
1/500…遮蔽物がない明るい場所を撮影する場合。
1/250…木陰などで撮影する場合。
1/125…建物の影などで撮影する場合。
1/60…明るい室内で撮影する場合。

マニュアルカメラの多くが、これらのシャッタースピードは中間値を選べます。シャッターダイヤルを1/250と1/500の間に合わせると、アバウトですが1/375くらいで撮影できます。(できない中間値もありますのでご注意ください)

なぜこのような大雑把な設定で良いかというと、ネガフィルムの広いラティテュードがあります。ラティテュードは最適な露出に対する誤差の許容度のようなもので、デジタルカメラはこれが若干狭く、ネガフィルムはとても広いです。とくに露出オーバーに対して強いため、絞りを開放しすぎたり、シャッタースピードが遅すぎても、問題なく現像できることが多いです。

但し、体感で露出を決めるならEVをきちんと理解したほうがいいです。この撮影法だと、露出オーバー(明るい)気味になることがあります。

EV値

EV値とは、いま現在の明るさを、絞りとシャッタースピードの組み合わせを調整するための値で、大雑把に言えば、絞り+シャッター速度=EVと言い換える事ができます。もちろん、単純に絞り値とシャッター速度を足し算するのではなく、変換表を用います。

EV値は露出計算を容易にする便利な方法ですが、多くの初学者があの複雑なEV表を目の当たりにしてやる気を削がれます。

露出とEVについてここでも詳細を説明していますが、もっと簡単な覚え方を紹介します。

上の写真がシャッタースピードダイヤルで、それぞれに数字を割り振っています。1/60を6と覚えるか、1/1000を10と覚えて、そこから一段ごとに数字がひとつ増減すると覚えればよいでしょう。

こちらは絞りリングに数字を振っています。F2.0が2、あるいはF4.0が4と覚えて、そこから一段ごとに増減すると覚えます。
(※写真では1がF1.5になっていますが、正確には1はF1.4です)

これら絞りとシャッタースピードの数字を足した数が、ISO100フィルムと仮定した時の適正露出「EV値」となります。
例えば、F2.8のときに1/125だと、3 + 7でEV10となります。少し曇った野外などの明るさに匹敵します。

EV値を覚えてもあまり意味がない?

EV値を覚えて撮影していると、やがてこのEV判定が難しいことに気付きます。

なぜなら、人間の眼球それ自体に「瞳孔」という絞りリングに匹敵する機能を備え、暗いところでは開かれ、明るいところでは絞られ、ちょうどカメラのレンズと同じように働きます。野外でも屋内でも、だいたい同じ明るさ感じるかもしれませんが、実際の野外と屋内の差は、EV9:EV16くらいの差が開くことがあります。

では体感露出が無意味かと言えば、そうとも言い切れません。場面ごとのEV値を覚えていくことで、ある程度は直感的に判断できるようになります。EV値の理屈をすっ飛ばして露出を感覚で決めると、いつまでたっても直感力は伸びません。

3つの撮影設定

マニュアルカメラで設定すべき部分は大きく3つあります。それぞれをどのタイミングで確定させるかを知っておくことで、迷いを減らすことができます。

ISO感度…固定

フィルムを入れた時点で固定値となります。ISO100のフィルムを入れたら、室内で撮影するのは困難になります。
オールマイティに撮影できる感度はISO200ですが、それでも夜間は厳しくなります。

絞り…撮影前に確定

風景をパキッと撮りたい場合はF5.6〜F8くらいまで絞り、ボケを生かす場合はF2.8前後で撮影することが多いと思います。
どういう画を撮りたいかを考えて、F値は予め決めておきます。シャッタースピードの調整でどうにもうまくいかない場合に絞りを変えて妥協します。

シャッタースピード…可変

ISOと絞りを優先的に決めれば、あとはシャッタースピードで露出を調整します。
一眼レフであればカメラに決められた最高のシャッター速度を使えますが、レンジファインダーのようにミラーの無いカメラは1/1000のような最高速は使えません。撮ってみればわかりますが、シャッター幕がバウンドして、写真の端っこが黒くなってしまいます。この速度は気合と根性のために残されたドイツ民族最後の良心です。

シャッター速度の最低値

通常、手持ちでブレないシャッター速度は

1/レンズの焦点距離

が最低速度とされています。

つまり、50mm標準レンズをつけている場合は、1/50が最低速度となり、実質1/60くらいが最低速度になります。それより遅いシャッタースピードで撮影すると手ブレを起こします。三脚などでカメラ本体を固定して撮影する必要があります。

マニュアルカメラでは、1/60より遅いシャッタースピードは低速シャッターと呼ばれ、通常のシャッターとは機構が異なります。そのためか、シャッタースピードダイヤルに赤いラインが引かれていることもあります。

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